モンブラン、ユングフラウだけではない観光

ロベール・エナール
(Robert Hainard)の動物版画
 
 担当 ジュネーヴ 麓 絵里 

素晴らしい動物版画や彫刻を残して1999年末亡くなったスイス人のロベール・エナールは、創作のために気の遠くなるような時間を自然や動物の観察に費やした。何日待ってもお目当ての動物が姿を現さないこともあった。しかしそんな「待ち」の時間は、エナールの自然を畏怖する心をいっそう育んだ。

<狐の親子>

<野ウサギ>
エナールは見たものを見たようにしか作品に再現しなかった。頭で理解した知識を徹底的に削除して、自分の目で見たもの、身体で感じたものを彫刻に版画に置き換えた。
例えば、月夜に見た熊の版画は全ての輪郭が漠然としている。しかし、版画に描かれているのは熊以外の何ものでもない。月光を受ける森の空気の静寂さやおぼろげさ、弱い光を跳ね返す雪など、熊を取り巻く全てのものが残さず再現されている。版画の主題は動物ではなく、動物を含む自然空間である。
その空間を描き出すために、エナールは独自の版画方法を作り上げた。我慢強い観察の成果を元に彫られた木版が独自の技術で刷り上げられたとき、二次元の版画面に「月明かりの熊」が浮かび上がる。


<月夜の熊>

<6匹の動物>
エナールの版画は、私たちを取り巻くものへの深い敬意と愛情に満ち溢れている。
自身の存在が、他者やその他のものから隔絶されたように感じられるとき、エナールの作品は私たちが偉大な自然の一部をなしていること、「つながるもの」であることを想い出させてくれる。